十分

いつの頃からだろう。
新しいバイクを欲しいという気持ちが自分の中から消えたのは。
３年ほど前までは、やれ次はSVだのはたまたVTRだの、いやまてSRVだのと言葉に
出していたようにおもうんだけども。

うん。分かってる。
バンバンで走り続けていくうちに気付いていったんだろう。
俺はコレクターじゃない、バイク乗りだから日常的に乗るのは一台で十分。
排気量は２００ｃｃもあれば十分、スピードは８０キロも出れば十分、
ピストンは一つで十分だし、バルブは二つで十分。
タイヤはバイアスで十分だし、ブレーキはディスク一枚で十分。
人差し指一本でブレーキをロックさせるダブルディスクも、一万を超えるｒｐｍも
、高価なラジアルタイヤも、びっくりするような最高時速も俺には必要ない。
大分くたびれてきたこのバンバン、俺の日常はこいつで十分すぎるほど十分だ。

街で、海で、山で旅先で。
走るたびにバンバンは俺に囁きかけてくる。

「　これ以上、何が必要だって言うんだい？　」